6月1日,ノルウェー王国大使館及び青山学院大学の共催によるシンポジムム「刑事司法を持続可能にするのは何か?―ノルウェーと日本の対話―」が開催された。
昨年7月22日,77人もの犠牲者を出した大量殺害事件を経験したノルウェーから,当時のストールベルゲ法務大臣はじめ,現職のノルウェー警察のラクレヴ警視正,ノルウェー控訴裁判所のヒュイットフェルト判事,そしてシンポジウム企画を総合指揮したオスロ大学社会科学研究所主任研究員のリル・シェルディン氏が来日。米国からハワイ大学のデイビッド・ジョンソン教授と,前ニューメキシコ州知事のビル・リチャードソン氏が参加。そして日本からは元判事・元法政大学教授の木谷明弁護士,龍谷大学の浜井浩一教授,成城大学の指宿信教授という,第一線で活躍する専門家が発言した。
世界的にみれば,ともに低い犯罪発生率と収容率を維持する中,1995年に地下鉄サリン事件を経験し,厳罰化の道をたどった日本と,昨年のテロ事件を受けてもなお,罪を犯した人の社会復帰を主眼とした司法制度を維持するノルウェー。シンポジウムは,捜査から公判,そして刑事施設での受刑を経て社会復帰に至るまでの,日本とノルウェーの共通点と相違点が鮮やかに描き出されるものであった。
ストールベルゲ大臣は,自ら執務中に合同庁舎が爆破され,直属のスタッフである女性も死亡した。彼女は当時,民事のみならず刑事事件についても適用される調停の利用増加についての報告書を完成させようとしていた矢先であった。亡くなる当日,彼女は自分のフェイスブックのページに,マハトマ・ガンディーの次のことがを引用していた「”目にを目を”が全世界を盲目にする」。彼女の葬儀で,家族は次のように述べたという。「”目にを目を”は全世界を盲目にし続ける」
ラクレヴ警視正は,えん罪は捜査官が真面目かつ熱心に仕事をする過程で発生するものであり,未然に防止するために制度的仕組みを整えても完全になくすことは不可能であることを力説。ノルウェーで近年実際にあった誤認逮捕事例(裁判の報道を知った真犯人が名乗り出て発覚)を挙げて,「仮に死刑があったなら,この犯人は名乗り出ただろうか?」と疑問を投げかけた。
なお,警視正によれば,ノルウェーでは,現在公判中のブレイビク被告人の家族について,多くの国民が,いわば事件の被害者として同情を寄せているという。会場にはオウム真理教家族の会(旧「被害者の会」の会長夫妻も来られていたが,自身もVXガス事件の被害者でありながら,元オウム信者の親として「被害者の方々に申し訳ない」と肩身を狭くして生きてこざるを得なかった日本の現実との違いを痛感させられた。
奇しくもシンポの2日後,特別手配中被疑者の逮捕という事態が起き,オウム事件が大きく脚光を浴びている。地下鉄サリン事件から17年の歳月を経たいま,日本の社会は,そこに生きる市民は,20年近くの来し方を振り返った上で,どちらの方向へと踏み出すべきなのか,大きく問われている。
なお主催者側では本シンポの記録を冊子化する計画を持っているので,当日参加されなかった多くの人々に,ぜひとも読んで頂きたい。