滝実法相の就任を受けて

 2012年6月4日,滝実法務大臣が就任した。民主党政権下で実に7人目となる法相の誕生である。

死刑の執行を大きな使命として任命され,実際に執行命令を下した小川敏夫前法相と比較すると,死刑執行に対する滝新法相の姿勢は慎重なもののようにみられる。しかし,死刑制度そのものに対しては「私は制度維持派」と明言し,執行対応についても,「制度が厳然とあり,司法当局が判決として死刑の裁断を下した以上,度外視した判断はできない」と述べ,執行はやむを得ないとの見解を示している。

副大臣として,平岡大臣の事実上の更迭を目の当たりにし,小川大臣の退任により漸く大臣の座に就いた滝氏。今期限りの引退を表明し,自治省官僚出身で「手堅さ」が定評の法相に,死刑に関する「国民的議論」の喚起や,執行停止を視野に入れた有識者会議の創設など,現状の変革に向けた意欲的な姿勢は,みられない。その一方で,小川前法相が,「死刑制度の在り方に関する勉強会」に代えて開始した,政務三役による死刑執行方法等に関する検討会は,秘密裏に継続されている。日弁連等が検討会の内容を含む情報の公開を求めても,密行方針は維持されたままである。

死刑執行の密行主義についての検討が,秘密のうちに行われているという有様では,せっかく緒に着いた議論もしぼんでしまう。この点をとことん追及しないメディア(一部を除く)の責任も重大だ。鉄壁の守りを誇る法務省検察官僚が動かす実務,そして制度の変革は,情報の開示とオープンな議論なしにはあり得ない。また,それを露骨に封じてきた野田首相・民主党執行部の姿勢も厳しく追及し,私たちの声を届けていかなければならない。

今月,「死刑に異議あり!」キャンペーンは発足から4年を迎える。当時は自民党政権下であった。今は逆境にあるようにも思えるが,4年前と比べれば事態に進展もあるのも事実だ。市民が目標を見失わず,地に足を着けた活動を続けていく必要がある。