「名張毒ブドウ酒事件」で最高裁が再審開始取消し決定を差戻し

 
日付:  月曜日, 2010-04-05
 

 1961年3月に三重県名張市で農薬入りのブドウ酒を飲んだ女性5人が死亡、12人が中毒症状を起こした「名張毒ブドウ酒事件」で、最高裁第三小法廷(堀籠幸男裁判長)は4月5日付で、奥西勝死刑囚(84歳)の再審を開始すべきか否かの判断を名古屋高裁に差し戻す決定を行った。

 この事件は、一審は無罪だったが控訴審で死刑判決が出て、1972年6月に最高裁が被告の控訴を棄却して死刑が確定した。第6次までの再審請求はいずれも棄却されたが、第7次再審請求について名古屋高裁が2005年4月に初めて再審開始と死刑執行停止の決定を行った。しかし、検察側がこれに異議を申立て、名古屋高裁の別の部が再審開始を取り消し、これに対して弁護側が特別抗告を申し立てていた。

 特別抗告審での最大の争点は、奥西死刑囚が使用したと自白した農薬「ニッカリンT」が実際に犯行に使われた農薬と一致するかという点で、弁護側が当時流通していた「ニッカリンT」を独自に入手して行った鑑定では「ニッカリンT」に含まれているはずの特定成分が検出されたのに、事件後のブドウ酒の鑑定ではこの特定成分が検出されておらず、事件で使われた農薬が「ニッカリンT」ではない疑いが出ていた。

 この点について、最高裁第三小法廷は、ニッカリンTが使われていなかったのか、鑑定の方法により検出できなかっただけなのかについて「(再審開始を取り消した)名古屋高裁の決定は科学的知見に基づく検討をしたとはいえず、いまだ事実は解明されていない」と指摘、弁護側の持つ「ニッカリンT」の提出を受けて改めて鑑定するなどの心理が必要として、5人の裁判官の全員一致で事件を名古屋高裁に差し戻した。

 この事件については、第一審で無罪判決、2005年4月に再審開始と死刑執行停止の高裁決定と、すでに2度にわたって実質無罪の判断が出ているわけで、それだけでも死刑判決を維持するに足りない。2005年4月の再審開始決定以降も再審開始をはばみ死刑判決を維持しようとし、逮捕当時35歳であった奥西氏を84歳の現在まで死刑執行の恐怖にさらし続けている検察側の対応は、許されるものではない。名古屋高裁はすみやかに再審開始決定をすべきである。

 「名張毒ブドウ酒事件」の再審が認められれば、戦後5番目の死刑再審事件となる。死刑事件についてもいまだに冤罪が絶えないことは、死刑制度の持つ本質的危険性を改めて明白にしている。