東アジア死刑廃止大会 第1分科会に80人が参加

 
日付:  土曜日, 2009-12-05
 

 12月5日に東京千代田区の明治大学で、「東アジア死刑廃止大会」の第1分科会「死刑と向き合う市民~裁判員制度と韓国参与員制度を比較して~」が開催された。参加者は約80人。

 韓国では、日本より早く2008年1月から、市民が刑事裁判に参加する「国民参与員制度」が試験的に導入され、2008年は約60件の参与員裁判が実施された。韓国の参与員制度は被告人に選択権があり、死刑執行が12年間停止しているなど、日本とは異なる状況もあるが、量刑にも市民が関与する点は日本の裁判員制度と共通している。

 この日のセミナーでは、韓国の参与員制度に詳しい崔信義弁護士、『世界の裁判員 14か国 イラスト法廷ガイド』(2009年、日本評論社)の共著者でジャパンタイムズ記者の神谷説子さん、死刑廃止議員連盟の前事務局長の保坂展人さん、監獄人権センター代表で刑事訴訟法の専門家でもある村井敏邦さんを講師に招き、裁判員制度によって市民が死刑事件に直面しようとしている状況をどのように考えるかをテーマに話し合った。

分科会1全景 神谷さんは、傍聴した釜山地方法院(裁判所)での参与員裁判の様子を、写真を使って紹介し、韓国の参与員制度の概要を説明された。対象事件は日本と同じ重大事件だが被告人に選択権があること。参与する市民は「陪審員」と呼ばれ、死刑無期事件では9名、否認事件では7名、自白事件では5人が3人の裁判官と一緒に裁判を行うこと。有罪無罪の事実認定は陪審員だけの全員一致で「勧告」し(一致しない場合は裁判官の意見を聞いた上で、陪審員だけの多数決)、量刑は裁判官の意見を聞いて陪審員だけで「意見」を決定すること。陪審員の「勧告」「意見」に裁判官は拘束されないことなどが説明された。

 崔さんは、韓国の死刑制度の状況について、現在58人の死刑確定者がいること。1997年を最後に12年間死刑が執行されていないこと。最近の連続殺人事件をきっかけに「サイコパス(人格障害)による連続殺人については例外的に死刑を認めてよいのではないか」という議論が起きていること。他方で、死刑執行停止の前後の比較から「死刑に犯罪抑止力はない」とする研究結果も出ていることなどが紹介された。
  また、2008年に行われた60件の参与員裁判のうち、陪審員の評決や裁判官の判決に反映されなかった7件はすべて、陪審員が無罪か一部無罪を評決した事件であったこと。死刑が求刑された参与員裁判は2008年と2009年に1件ずつあったが、一方は無期刑、他方は13年の有期刑であったことが報告された。

 保坂からさんは、2002年に韓国の死刑廃止法案に触発されて死刑廃止議員連盟が発足し、2003年に「死刑執行停止、調査会設置、重無期刑導入」の法案(未提出)を作ったこと。その後、2006年以降の3年間で35人という大量執行という状況下で、昨年「裁判員裁判での死刑評決の全員一致制、代替刑としての終身刑」法案を作ったこと。裁判員裁判で死刑判決が出れば、「市民の決定に法務大臣は従わないのか」という執行圧力が強まるおそれがあり、それ以前に審査会を設置して、死刑事件を裁判員裁判の対象からはずすか全員一致制を導入するべきだと述べられた。

 村井さんからは、韓国の最高裁長官や高麗大の参与裁判監視機関との会談の様子が紹介され、また韓国の司法改革では「拘束力ある陪審制」が目指されたが、憲法上「法官に裁判」が保障されている点がネックになっていること。参与員裁判の件数が少ないのは性犯罪者や共犯者が選択しないケースが多いので、被告人に対するアピールも課題になっていること。日本の裁判員制度については、陪審員の秘密保持義務を撤廃すべきことが述べられた。
また、市民が死刑判決の直面することによって死刑に疑問が生じる可能性があるので、死刑事件を対象事件から除くべきではなく、死刑廃止論者も裁判員を拒否せず評議で死刑に反対すべきだと問題提起された。